はじめに
「そもそもクレジット表記って何?」
「クレジット表記をどうしたら良いのかわからない」
「イラストレーターさんからクレジット表記を求められた」
「クレジット表記についてトラブルにならないようにしたい」
著作物を取り扱う会社での業務や、Vtuber・Vライバーなどの配信活動の際にクレジット表記を求められる場面は少なくありません。
結論だけいえば、クレジット表記はある程度自由に内容を決めていただいても問題ありません。ただし、著作権のうち、氏名表示権(著作人格権)との関係でトラブルが生じる場合があるため、以下の内容をご確認いただき、適切な対応をしていただくことをおすすめしています。
クレジット表記とは
クレジット表記は、イラスト・音楽・文章などの著作物の著作者、提供者を示すものです。クレジット表記をすることで、著作権の所在を明確にすることができ、無断転載などのトラブルを防止することが期待できます。
もっとも、クレジット表記をすることは法的な義務ではありません。日本では著作権に関して「無方式主義(著作物の創作によって自動的に著作権が発生し、権利の登録や表示を不要とするルール)」が採用されているからです。過去には、アメリカなどが「方式主義(著作権を得るためには、政府機関への登録等が必要とするルール)」を採用していたため、日本やヨーロッパの著作物がアメリカなどで保護されるためにはクレジット表記を行う必要がありましたが、現在ではほぼ全ての国家が無方式主義のルールを採用していますので、クレジット表記を付すことに法的な意味合いはほとんどありません。
クレジット表記をすべきかどうか。氏名表示権への配慮
クレジット表記をすることが法的な義務ではなく、かつ通常はクレジット表記をすることに大きなメリットはありません。
ただし、「著作物の創作にあなた以外の人が関わっている場合」には注意が必要です。これはあなたが法人(会社)である場合も、自然人(個人、個人事業主)の場合も同じです。
たとえば、会社で使うイラストを社内のデザイナーさんに制作してもらった場合をみてみましょう。デザイナーさんがイラスト(著作物)を制作した場合、デザイナーさんには著作権と、著作人格権という権利が発生します。社内のデザイナーさんが会社の指示でイラストを制作したにもかかわらず、会社がそのイラストを自由に使えないとなれば会社は困ります。そのため、著作権法第15条1項が、「一定の要件を満たすことで会社が著作者となり著作権と著作者人格権を取得する」というルールを定めています。これを「職務著作」といいます。
では、会社が社内のデザイナーさんに著作物の制作を任せる場合、職務著作のルールがあるから別段の考慮は不要なのでしょうか? 残念ながらそうではありません。職務著作が認められるためには厳しい要件を満たす必要があり、職務著作に当たるのかどうかということが裁判上争いになることも少なくありません。また、完成したイラストに著作権が発生することは争いの余地がありませんが、制作の過程で生じたデザイン案などについてどのように取り扱うべきかは、職務著作の規定のみでは直ちに解決ができません。
そのため、就業規則などに知的財産権や職務著作に関する個別の規定を設けておくことをおすすめしています。サンプルは以下のとおりです。自社の就業規則に同様の定めがあるかご確認ください。
従業員が職務を通じて作成したデザイン案、著作物の案及び著作物(これらを構成する図画・写真・文章等を含む。以下「著作物等」という。)の著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)その他の一切の知的財産権は、発生と同時に、従業員から使用者に移転する。また、従業員は、著作物等について、使用者又は使用者が指定する第三者に対して著作者人格権を行使しない。なお、権利移転の対価は賃金に含まれる。
また、社外のデザイナーさんやイラストレーターさんにイラストなどを外注する場合には、業務委託契約等に著作権や著作者人格権の取り扱いを定めた規定を置くようにします。Vtuberさんやプロダクションが活動に使用するイラストやモデルの制作を外注する場合も同様です。
著作者人格権の内容の一つに「氏名表示権」というものがあります。これは、著作物の利用に際して、氏名(クレジット)を表示するかどうか、表示する場合どのような表記にするかを決めることができるという権利です。職務著作や就業規則、業務委託契約で上記のような取り決めができている場合には、著作者人格権の不行使を約束しているため法的にはクレジット表記は不要です。
適切な取り決めがない場合、デザイナーさんやイラストレーターさんから表示を求められた場合には、希望どおりの表示を行わなければ原則として氏名表示権侵害となります。
特に、印刷物などですでに著作物の使用をスタートしてしまっている場合、あとからクレジット表示を追加することは困難な対応となる場合もありますので、事前の確認が必要です。
クレジット表記の方法
クレジット表記をする場合、表記の方法に決まりや指定はありません。もっとも、複数の表記が混在することは望ましくないため、取り扱いを確定させておくことが望ましいでしょう。
最も丁寧な表記は以下のようになります。
「Copyright」は省略してもよく、「2023-2024」については前者が発行年、後者が更新年ですが、更新年は省くケースの方が多いです。
これだけでもかなりすっきりしました。「All Rights Reserved.」はブエノスアイレス条約に基づく表記を参考にしたものですが、非加盟国である日本においては表記義務がありません。また、著作物の性質によっては、発行年を入れることで見栄えが悪くなるケース(Webサイトなど)もありますので、省いてもよいでしょう。
結論としては、「© 【個人名・企業名・団体名・ペンネーム・芸名】.」の形がシンプルで使いやすい形式です。
「©」の表記とは別に、就業規則や業務委託契約等で表示しない(著作者人格権を行使しない)と約束している場合でなければ、氏名表示権との関係で、制作に関与したデザイナーさんやイラストレーターさんとの間でどのように表記を行うのかあらかじめ打ち合わせをしていただくことが必要になります。もちろん、著作者人格権の不行使を約束してもらいつつ、任意にイラストレーターさんなどのペンネームを表示することも差し支えありません。
illustrated by 【イラストレーター名】
illustrator/【イラストレーター名】
イラスト:【イラストレーター名】
という形がオーソドックスです。イラストレーターさんのご希望によってはソーシャルアカウントの情報を加え、「illustration by 【イラストレーター名(@SNSのユーザー名)】」とする場合もあります。頭文字は大文字のほうがよりフォーマルな印象ですがフォントによっては「I」(アルファベット大文字のアイ)と「l」(アルファベット小文字のエル)の判別がつきづらいため、小文字の「i」とする場面も少なくありません。
もちろん「イラスト:【イラストレーター名】」のように日本語にすることも問題ありません。
編集 Edited by 〇〇
音楽 Music by 〇〇
イラスト以外では上記の表記が一般的なほか、キャラクター原案と著作物であるイラストの制作者が違う場合は、「Character Design by 〇〇」や「Character Designer 〇〇」と、「illustration by 【イラストレーター名】」を併記する場合もあります。
まとめ
印刷物やグッズの場合、クレジット表記が間違っていた場合や、あとからイラストレーターさんから表示を求められた場合、刷り直しなどの対応には大きなコストがかかります。
また、Vtuberなどの配信活動においても、当初のキャラクターデザインを元に、3Dモデルの制作や、新しいイラストの作成を他のモデラーさんやイラストレーターさんに依頼する場面がありますが、制作の可否や氏名表示の内容を都度打ち合わせするのはお互いにとって煩雑です。また、いざ新しいイラストなどを作成しようとした際に、当初のイラストレーターさんと連絡がとれなくなっており、あとからの打ち合わせができなくなってしまったというケースも散見されます。
このような事態を避けるためには、当初から適切な就業規則の定めや業務委託契約書の作成をしておく必要があります。特に、外部のフリーランスのイラストレーターさんに依頼をする場合は必須の対応です。
この記事のまとめは以下のとおりです。
- 著作権や著作者人格権の取り扱について、就業規則や業務委託契約書に適切な定めを置く必要がある
- 「©」表記はどのような形式でもよいが、複数の表記が混在しないように確定させておく
- コンテンツを外注する際は、使用の範囲や氏名表示の方法・内容について事前に決めておく
ルーセント法律事務所では、著作権に関するご相談やトラブルを多数取り扱っており、リスク軽減のための様々な知見を有しています。
著作権トラブルやトラブルにならないための契約書の作成などにお困りの場合は、ぜひご相談ください。