刑事事件の被害回復のために~損害賠償命令制度
刑事事件の被害者になってしまったときに、被害者は、被疑者・被告人(刑事事件の加害者)に対して犯罪によって生じた損害や精神的苦痛を賠償するように請求をすることができます。
加害者(や加害者が依頼している弁護人)からの示談の申し入れがあった場合、これを受けることで、早期の被害回復を図ることができます。
もっとも、示談の申し入れがないまま刑事裁判が進むケースも少なくはありません。このような場合に被害者が金銭的な賠償を得ようと思えば、刑事裁判とは別途、民事訴訟によって請求を行うこと必要となります。しかしながら、民事訴訟の対応には相当な時間と費用を要してしまいます。
この記事では、犯罪被害者が迅速に被害回復を受けられるように設けられている損害賠償命令制度の概要をまとめています。
損害賠償命令制度の概要
損害賠償命令制度は、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」に規定があります。
① 対象となる犯罪が限定されている
損害賠償命令制度の対象となる犯罪は以下の犯罪に限定されており(法24条1項)、これ以外の犯罪被害については利用ができません。
・故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪
(例)殺人罪、傷害致死罪、傷害罪、強盗致傷罪など
・不同意わいせつ、不同意性交等、監護者わいせつ及び監護者性交等の罪又はその未遂罪
・逮捕及び監禁の罪
・未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等の罪
・そのほか、その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪
② 刑事裁判の裁判官がそのまま担当してくれる
損害賠償命令制度では、刑事裁判を担当した裁判官が刑事事件の有罪判決の言渡し後に、引き続き損害賠償請求の審理を行います。
③ 迅速な審理が期待できる
損害賠償命令の審理は、特別の事情がある場合を除き4回以内で終結しなければならないとされています(法31条3項)。
④ 民事訴訟に比べ、申立手数料が低廉
申立手数料は原則として2,000円と、民事訴訟に比べ低廉な額です。
損害賠償命令制度のメリット・デメリット
① メリット
損害賠償命令制度は、刑事裁判を担当した裁判官がそのまま損害賠償請求の審理を担当してくれることに大きなメリットがあります。刑事事件の記録が引き継がれるほか、裁判官の心象形成が容易であることから被害者の方にとって立証の負担が大きく軽減されています。
また、4回以内という比較的短い審理回数で終結することが求められているため、通常の民事訴訟に比べ迅速に結論を得ることができます。
被害額が大きい場合、通常の民事訴訟では申立時に高額の手数料が必要となりますが、損害賠償命令制度では請求額にかかわらず一律2,000円の手数料で申立が可能です。
② デメリット
審理に日時を要し4回以内の期日で終結できない場合や、損害賠償命令の申立ての裁判に対して適法な異議の申立てがあった場合には、通常の民事訴訟手続に移行します。被害者はこの場合、本来の民事訴訟に必要な手数料の額から損害賠償命令の申立て時に納付している2,000円の手数料を控除した額を追加で納めなければなりません。
注意点
・損害賠償命令は刑事裁判の第一審の弁論が終結するまでの間に申立てをしなければいけません。弁論終結後は申立てができなくなります。
・未成年の方が被害者の場合は、申立書に法定代理人の表示が必要となり、親子関係を証明する書類(戸籍抄本等)の提出が必要となります。
・損害賠償命令の初回の期日は、刑事裁判の判決の日に判決言渡しに続いて行われます。そのため、判決の日には裁判所に出頭しておいていただく必要があります(弁護士に対応をご依頼いただいている場合は弁護士が代わりに出頭すれば被害者ご本人様の出頭は不要です。)。
・4回以内の期日で終結できるように、通常の民事訴訟に比べ早期に十分な主張を展開していく必要があります。
まとめ
損害賠償命令制度は、対象となる犯罪が限定されており、通常の民事訴訟に移行する場合がある等、必ずしもメリットばかりではありませんが、適切な利用ができれば通常の民事訴訟よりも早期に被害回復を受けることが可能になります。示談交渉が不調に終わった場合や示談の申し入れがなかった場合には、損害賠償命令制度の利用を検討するべきです。特に、死亡や後遺障害が残る重大な被害が生じているケースや不同意性交等のように損害賠償金額が大きくなる場合には積極的に利用していくことが考えられます。当事務所では、豊富な刑事弁護の経験を活かして被害者側の法的支援にも注力しています。犯罪の被害回復についてお悩みの場合はぜひ一度当事務所にご相談ください。