弁護士コラム

借金も相続しない「相続放棄」。
認められない2つの重大なケースとは?

2025.11.27

はじめに:亡くなった親に、借金が…どうすれば?

はじめに:亡くなった親に、借金が…どうすれば?

 

「亡くなった親に、多額の借金があることがわかった

「疎遠だった兄弟が亡くなり、突然、督促状が届いた

 

遺産相続と聞くと、不動産や預貯金といったプラスの財産をイメージしがちですが、残念ながら、借金やローン、連帯保証といったマイナスの財産(負債)も、相続の対象となります。

原則として、相続人は亡くなった方(被相続人)の財産を全て引き継ぐため、プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合、相続人はその借金を背負わなくてはならなくなります。

このような事態を回避するために、「相続放棄」という制度があります。しかし、この手続きには厳格なルールがあり、一定の条件を満たさないと認められない、あるいは、後から無効になってしまう危険性があります。

この記事では、相続放棄の基本的な仕組みと、相続放棄が認められなくなる「2つの重大なケース」について、分かりやすく解説します。

相続放棄とは?
プラスもマイナスも「一切」引き継がないこと

相続放棄とは、家庭裁判所に申立てを行うことで、法的に「最初から相続人ではなかった」とみなしてもらう手続きです。

この手続きが受理されると、亡くなった方のプラスの財産(預貯金、不動産など)を一切受け取る権利を失う代わりに、借金や連帯保証債務といったマイナスの財産も一切引き継がなくてよくなります。

重要なポイント

  • プラスの財産だけ相続し、マイナスの財産だけ放棄する、といった「いいとこ取り」はできません。
    相続放棄は、「全て」か「ゼロ」かの選択です。
  • 相続放棄が認められると、その人は最初から相続人ではなかったことになるため、次の順位の相続人に相続権が移っていきます。(例:子が放棄すれば、親。親もいなければ兄弟姉妹)
  • 相続放棄は家庭裁判所に申立てを行う手続きです。「法定相続人間で話し合いを行い、自分は取り分を貰わないことにした」というのは遺産分割協議であり相続放棄ではありません。
    相続財産に負債があるにもかかわらず、遺産分割協議で処理をしてしまうと、あとから負債を負わなければならなくなる場合があるため注意が必要です。

相続放棄が認められない(無効になる)2つの重大なケース

相続放棄は、非常に強力な制度である反面、2つの厳格なルールがあります。

これを知らないと、「放棄したつもり」が、法的には認められないという最悪の事態に陥ります。

ケース1:期限切れ(3ヶ月の熟慮期間)

相続放棄は、いつでもできるわけではありません。法律で厳格な期限が定められています。

期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」です。

「相続の開始があったことを知った時」とは、一般的に「(被相続人が)亡くなったことを知り、かつ、自分が相続人であることを知った時」を指します。

この3ヶ月という期間は「熟慮期間」と呼ばれ、この間に財産を調査し、相続するか放棄するかを決断しなければなりません。

この期間を1日でも過ぎてしまうと、原則として相続放棄の申立ては家庭裁判所に受理されなくなります。

 

【例外】 3ヶ月を過ぎてから借金が発覚した場合など、特別な事情があれば、期間経過後でも放棄が認められる可能性がありますが、これには専門的な法的判断が必要です。

ケース2:遺産に手をつけてしまった(法定単純承認)

こちらが、ご自身では気づきにくい、最も恐ろしい落とし穴です。

相続人が、亡くなった方の財産(遺産)に対して一定の行為をしてしまうと、法律上、「あなたは相続することを承認しましたね(=単純承認)」とみなされてしまい、その後一切、相続放棄ができなくなります。

これを「法定単純承認」といいます。

法定単純承認にあたる行為の具体例
  • 亡くなった方の預貯金を引き出し、自分のために使った。
    (例:自分の生活費に充てた、自分の借金返済に使った)
  • 亡くなった方の不動産や自動車を、売却したり、自分の名義に変更したりした。
  • 亡くなった方の貴重品(貴金属、骨董品など)を、形見分けと称して持ち帰ったり、売却したりした。
  • 自分が受取人ではない死亡保険金(受取人が亡くなった方本人)を受け取って使ってしまった。
  • 借金の存在を知りながら、遺産をわざと隠した。

 

これらの行為を一つでもしてしまうと、たとえ3ヶ月の期限内であっても、あなたの相続放棄は認められなくなります。

葬儀費用を故人の預金から支払った場合は?

これは非常によくある質問です。

社会通念上、相当な範囲内での葬儀費用を、故人の預貯金から支出することは、例外的に法定単純承認にあたらないとされるケースが多いです。

しかし、これは非常にデリケートな問題であり、どの範囲までが許されるかの判断は難しいため、遺産には一切手を付けず、まずは弁護士に相談するのが最も安全です。

なぜ、相続放棄には弁護士のサポートが必要なのか

相続放棄は、手続き自体はシンプルに見えますが、上記のような厳格なルールがあり、一度失敗すると取り返しがつきません。

「3ヶ月」の期限管理と、期限後の対応

弁護士は、正確な期限(起算点)を法的に判断します。もし、3ヶ月を過ぎてから借金が発覚したようなケースでも、「借金の存在を知った時から3ヶ月」として、期間経過後の申立てが認められるよう、裁判所を説得するための専門的な主張を行います。

「法定単純承認」にあたる行為を避けるためのアドバイス

「これはやっても大丈夫か」「あれは手をつけてはいけないか」といった、相続発生後の財産の取り扱いについて、あなたがうっかり法定単純承認となる行為をしてしまわないよう、法的な観点から明確にアドバイスし、あなたの放棄の権利を守ります。

煩雑な書類作成と家庭裁判所への申立て代行

相続放棄の申立てには、戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍など)を何通も遡って集める必要があり、非常に手間がかかります。

弁護士がこれらの戸籍収集から、申立書の作成、裁判所への提出まで、全てを代行します。

債権者(借金相手)への対応

相続放棄が受理された後も、事情を知らない債権者から督促が来ることがあります。

弁護士があなたに代わって「相続放棄受理証明書」を提示し、債権者に対して、法的に支払義務がないことを明確に通知します。

借金相続の不安は、専門家への相談で解決を

借金相続の不安は、専門家への相談で解決を

「相続放棄」は、あなたの人生を予期せぬ借金から守るための重要な手続きです。しかし、その手続きには法律上の「落とし穴」がいくつも隠されています。その落とし穴にはまってしまう前に、できるだけ早く専門家にご相談ください。

ルーセント法律事務所は、宝塚市・西宮市をはじめ阪神地域において、相続放棄に関するご相談・ご依頼を多数お受けしております。

「借金があるかもしれない」「3ヶ月の期限が迫っている」「どうすればいいかわからない」という方は、遺産に手を付ける前に、まずは当事務所にご連絡ください。

初回のご相談は無料です。あなたの平穏な生活を守るために、私たちが最適な法的手続きを迅速にご提案いたします。

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