はじめに:
「お金を払って、早く終わらせたい」その安易な判断の危険性

不倫問題、交通事故、暴行や窃盗などの刑事事件…。ご自身の過ちによって誰かに損害を与えてしまい、相手方から損害賠償(慰謝料・示談金)を請求されたとき、「お金を払ってでも、とにかくこの問題を早く終わらせたい」と考えるのは、自然なことです。
そして、相手方と話し合い、提示された金額をその場で支払ったり、指定された口座に振り込んだりして、「これで解決した」と安心してしまう方がいます。
しかし、その「口約束」や「支払いだけ」の解決は、極めて危険です。
法的に有効な「示談書」を作成しておかなければ、後日、さらなる請求を受けて紛争が蒸し返されたり、あなたが望んでいたはずの解決が得られなかったりする、深刻なリスクが残ってしまうのです。
この記事では、なぜ、ただお金を支払うだけでは不十分なのか、「示談書」を作成しないことの具体的なリスクについて、弁護士が分かりやすく解説します。
「示談書」とは?
なぜ、ただ支払うだけではダメなのか?
示談書とは、当事者間でトラブルの解決について合意した内容を明確に記録した、法的な契約書の一つです。
単にお金を支払うという行為は、「損害の一部を賠償した」と解釈される余地を残します。
一方、示談書には、「この合意をもって、本件に関する紛争は全て解決とし、今後一切の請求を行わない」という趣旨の約束を明記します。
これにより、初めて法的な意味で「紛争の完全な終わり」が確定するのです。なお、実際の具体的な文言は事案により変わります。
示談書がないことによる3大リスク
示談書を作成せずに和解すると、主に以下の3つの大きなリスクを背負うことになります。
リスク1:紛争が蒸し返される(追加請求)
これが最も恐ろしく、そして最もよくあるトラブルです。
示談金を支払って数ヶ月後、相手方から「やっぱり精神的な苦痛が癒えないから、慰謝料を追加で払ってほしい」「後から新たな後遺症が出てきたから、その治療費も払え」などと、再び金銭を請求される可能性があります。
口約束で「これで終わりだ」と確認したつもりでも、書面がなければ「そんな約束はしていない」と言われてしまえば、それを証明するのは非常に困難です。
解決策
- 清算条項(せいさんじょうこう)
弁護士が作成する示談書には、通常、「本示談書に定めるほか、当事者間には何らの債権債務も存在しないことを相互に確認する」という「清算条項」を入れます。
この一文があることで、法的に紛争の蒸し返しを防ぎ、万が一追加で請求されても「既に解決済みです」と明確に突っぱねることができます。
リスク2:あなたの希望(口外禁止など)が約束されない
あなたが示談金を支払うのは、ただ損害を償うだけでなく、「この件を他言しないでほしい」「警察沙汰にしないでほしい」といった、あなた側の希望も叶えたいという思いがあるからではないでしょうか。
しかし、これらの約束も、口約束だけでは何の意味もありません。
口外禁止(守秘義務)
不倫問題などで、示談金を支払ったのに、相手方があなたの配偶者や職場に事実を告げ口してしまうケースがあります。示談書に「正当な理由なく、本件に関する事実を第三者に口外しない」という守秘義務条項を入れておけば、これを法的に禁じることができます。
被害届の取下げ・宥恕(ゆうじょ)
暴行や窃盗などの刑事事件では、示談金を支払う最大の目的の一つが、被害届を取り下げてもらい、刑事事件化を防いだり、不起訴処分を目指したりすることです。
示談書に「被害届を取り下げ、加害者の刑事処罰を望まない(宥恕する)」という文言(宥恕文言)を入れてもらうことで、その意思を明確な証拠として検察官に示すことができます。これがないと、お金だけ取られて、刑事手続きはそのまま進んでしまう、という最悪の事態になりかねません。
リスク3:支払い事実の証明が困難になる
特に現金で手渡しした場合、後から「まだもらっていない」「金額が足りなかった」などと言われた際に、支払った事実やその金額を証明するものがなく、二重払いを強いられるリスクがあります。示談書は、あなたが合意通りの金額を支払ったことの、確固たる証拠にもなります。
示談書がないと、こんなトラブルに…
- 不倫のケース
慰謝料を支払った後で、相手があなたの職場に連絡してきたり、「やっぱり離婚することになったから、慰謝料を追加で請求します」と再び連絡してきたりする。 - 交通事故のケース
治療費として一定額を支払った後で、被害者が「後遺障害が残った」と主張し、高額な後遺障害慰謝料や逸失利益を追加で請求してくる。 - 暴行・窃盗などの刑事事件のケース
被害弁償としてお金を支払ったにもかかわらず、相手が被害届を取り下げてくれず、結局逮捕・起訴されてしまい、前科がついてしまう。
なぜ「示談書」の作成は弁護士に依頼すべきなのか
示談書は、インターネット上のテンプレートを真似て作ることもできるかもしれません。筆者は生成AIで作成された示談書も目にしたことがあります。
しかし、当事者が適当に作成した示談書には往々にして問題があります。弁護士である筆者の感覚として、当事者が作成した示談書である程度内容が適切なものは全体の1割にも満たない印象です。
あなたの具体的な状況に合わせて、あなたを守るための条項を抜け漏れなく盛り込んだ、法的に有効な示談書を作成するには、専門家である弁護士のサポートが不可欠です。
- あなたを守るための条項を交渉するため
弁護士は、単に金額を交渉するだけではありません。上記で解説した「清算条項」「守秘義務条項」「宥恕文言」など、あなたの未来のリスクをなくすために必要な全ての条件を、相手方と交渉します。 - 法的に有効で、抜け漏れのない示談書を作成するため
状況に応じた適切な文言を選び、後から解釈の争いが生じない、法的に「効力」のある書面を作成します。 - 「これで終わり」という法的なお墨付きを得るため
弁護士が作成・締結に関与した示談書は、その後の紛争を予防する極めて強力な武器となり、あなたに「法的に解決済みである」という安心感を与えてくれます。 - 相手方との交渉から書面作成まで、一貫して任せられるため
精神的に負担の大きい相手方とのやり取りを全て弁護士に任せ、あなたは冷静な状況で問題解決に臨むことができます。
その場しのぎの解決ではなく、未来の安心のために

トラブルに直面したとき、「早く終わらせたい」という気持ちから、安易な解決方法を選んでしまいがちです。しかし、その場しのぎの解決は、より大きなトラブルの火種を残すことになりかねません。
示談金を支払うのであれば、必ず法的に有効な示談書を作成する。これが、紛争を完全に終わらせ、あなたの未来の平穏を守るための鉄則です。
ルーセント法律事務所は、西宮市・宝塚市をはじめ阪神地域において、不倫、交通事故、刑事事件など、様々なトラブルの示談交渉・示談書作成に豊富な経験がございます。相手方から損害賠償を請求され、どう対応すればよいかお困りの方は、相手方にお金を支払ってしまう前に、まずは当事務所にご相談ください。
初回のご相談は無料です。あなたの代理人として、最適な解決条件を交渉し、未来に憂いを残さない、完璧な示談書を作成することをお約束します。