はじめに:敷地内の電柱、気になりませんか?

「自宅の敷地内に電柱があって、車の出し入れがしにくい…」
「土地を相続したけれど、ど真ん中に電柱が立っていて活用しづらい…」
「土地を売りたいのに、電柱が邪魔で買い手がつきにくい、または評価が下がりそう…」
このように、ご自身の土地の上にある電柱の位置が、日常生活の不便さや、土地の有効活用、さらには相続や売買といった重要な取引の障害となることがあります。
「この電柱、なんとかならないの?」そう思われる方も少なくないでしょう。
実は、一定の条件と手続きのもと、電柱を移動(移設)してもらえる可能性があります。この記事では、電柱移設の基本的な流れ、費用負担、注意点などを弁護士が分かりやすく解説します。
1. まず誰のもの?電柱の所有者を確認しよう
電柱を移動したいと考えたとき、最初にすべきことは「その電柱が誰の所有物か」を確認することです。電柱には、多くの場合、所有者を示すプレートや管理番号が取り付けられています。
主な電柱の所有者は以下の通りです。
- 電力会社:関西電力など(電気を供給するための電線が張られています)
- 通信会社:NTT西日本など(電話線や光ファイバーケーブルが張られています)
共架柱(きょうがちゅう)と言って、これらの会社が共同で1本の電柱を使用している場合もあります。まずは電柱のプレートを確認し、記載されている会社に問い合わせてみましょう。不明な場合は、地域の電力会社やNTTに問い合わせれば、所有者を教えてもらえます。
2. なぜ移したい?理由によって費用負担も変わる
電柱を移設する理由は様々ですが、その理由によって移設費用の負担者が大きく変わってきます。
- 土地所有者の都合による場合:
「家を新築・改築するのに邪魔」「駐車場を作りたい」「土地の見た目を良くしたい」「土地を売りやすくしたい」など、土地所有者側の希望で移設する場合は、原則として移設にかかる費用は土地所有者の負担となります。今回の記事では、主にこのケースを想定しています。 - 電力会社・通信会社側の都合による場合:
電柱の老朽化、道路拡張工事、電線地中化など、公共の利益や電力会社等の事業上の必要性から移設する場合は、原則として電力会社・通信会社側の負担で移設が行われます。
3. 電柱移設の一般的な流れ
土地所有者の都合で移設を希望する場合、おおむね以下の流れで手続きが進みます。
①所有者への連絡と申込み
特定した電柱の所有会社(電力会社やNTTなど)の担当窓口に連絡し、「敷地内の電柱を移設したい」旨を伝え、正式な申込み手続きを行います。
②現地調査・協議
電力会社等の担当者が現地を訪れ、現在の電柱の状況、配線状況、周囲の環境などを調査します。その上で、移設先の候補地や技術的な問題点、おおよその費用などについて協議します。
③移設先の検討・承諾取り付け
- 同一敷地内での移設:
技術的に可能で、他の法令等に抵触しなければ比較的スムーズに進む可能性があります。 - 隣接地や公道への移設:
もしご自身の敷地外(隣の土地や公道など)への移設を希望する場合は、その土地の所有者(隣人や道路管理者など)からの承諾が必ず必要になります。この承諾を得るのが難しい場合も少なくありません。
④見積もりと契約
移設先や工事方法が具体化したら、電力会社等から正式な工事費用の見積もりが提示されます。内容に合意すれば、工事契約を締結します。
⑤工事の実施
契約後、電力会社等が工事を手配し、電柱の移設作業が行われます。
4. 移設は必ずできる?主な条件と注意点
電柱の移設は、希望すれば必ずできるというわけではありません。以下の点に注意が必要です。
- 技術的な制約:
電線や通信ケーブルの張力、他の電柱との距離、周辺の建物や道路との関係など、技術的に移設が困難な場合や、移設先の選択肢が非常に限られる場合があります。 - 移設先の確保:
特に都市部では、電柱を新たに設置できるスペースを見つけるのが難しいことがあります。 - 近隣住民の理解・承諾:
移設によって隣家の景観や日照、通行に影響が出る可能性がある場合、事前に十分な説明と理解(場合によっては書面での承諾)を得ることがトラブル回避のために重要です。 - 費用負担:
後述しますが、土地所有者都合の場合は高額な費用がかかることがあります。 - 敷地料との関係:
電力会社等は、私有地に電柱を設置する際、土地所有者に「敷地料」として年間数百円~数千円程度を支払っていることがあります。移設によってこの支払いがなくなる(または継続する)かなども確認が必要です。 - 地役権等の設定:
まれに、電柱敷地について電力会社等が地役権などの権利を持っている場合があります。
5. 気になる費用は誰が負担?どれくらいかかる?
前述の通り、土地所有者の都合で電柱を移設する場合、その費用は原則として全額、土地所有者の負担となります。
費用は、移設する距離、新しい電柱の種類、工事の規模や難易度、電線の種類や本数、アスファルトの掘削・復旧の有無などによって大きく変動しますが、一般的に数十万円から、場合によっては100万円を超えることもあります。事前に複数の候補地で見積もりを取り、比較検討することも重要です。
6. 期間はどれくらい?
申込みから現地調査、協議、見積もり、契約、そして実際の工事完了までには、数ヶ月から半年、場合によっては1年以上かかることもあります。
特に、隣接地への移設で承諾が必要な場合や、関係各所との調整が多い場合は、時間がかかる傾向にあります。 相続や土地売買のスケジュールと関連して移設を検討する場合は、早めに動き出すことが肝心です。
専門家への相談も検討しよう
電柱の移設は、技術的な問題や費用面だけでなく、時には法的な問題が絡むこともあります。
- 電力会社・通信会社との協議が難航する場合:
費用負担や移設先の選定などで、なかなか合意に至らないケース。 - 隣接地所有者との間でトラブルが発生した場合:
移設先の承諾が得られない、あるいは移設後にクレームが発生するなどのケース。 - 土地の権利関係(地役権など)が複雑な場合:
そもそも電柱が設置されている法的な根拠について確認が必要なケース。 - 相続や土地売買契約の一環として移設を進める場合:
相続人間で、特定の土地の電柱を移設することを遺産分割の条件としたい場合や、土地の売買契約において、電柱の移設を買主への引渡し条件としたい場合など、移設を他の法的な取り決めと連動させる際には、その合意内容を法的に有効な形で書面に残したり、契約条件に適切に反映させたりする必要があります。このような場合、弁護士に相談することで、後日のトラブルを予防し、円滑な取引や相続を実現するためのサポートが期待できます。
ルーセント法律事務所では、不動産取引や相続に関するご相談を承っております。電柱の移設そのものは専門工事業者の領域ですが、それが相続財産の評価や分割方法、土地の売買契約の条件などに影響を及ぼす場合、法的な観点からアドバイスやサポートを行うことができます。
まとめ:円滑な土地活用のために

敷地内の電柱の移設は、時間も費用もかかる可能性がありますが、実現すれば土地の利便性や価値を高め、円滑な相続や売買につながることがあります。まずは電柱の所有者を確認し、相談してみることから始めましょう。
そして、もし移設が相続問題や不動産取引の重要な要素となる場合には、その法的な側面について、一度ルーセント法律事務所にご相談ください。当事務所では、宝塚市・西宮市などの阪神地域をはじめ他府県の不動産会社ともネットワークを有しており、土地家屋調査士との連携も可能です。円滑な土地活用や取引にお困りの際はご遠慮なくご連絡ください。