はじめに:なぜ「証拠」がそんなに重要なのか?
離婚、相続、お金の貸し借り、あるいは犯罪被害など、私たちは様々な法的なトラブルに巻き込まれる可能性があります。そのようなとき、ご自身の主張が正当であることを認めさせ、納得のいく解決を得るために、決定的に重要となるのが「客観的な証拠」です。
残念ながら、法的な話し合い(交渉)や裁判所の場では、「言った」「言わない」の水掛け論になってしまうことが少なくありません。どれだけご自身が「絶対にこうだった」と確信していても、それを裏付ける客観的な証拠がなければ、相手方や裁判官を説得することは非常に困難です。「証拠がない」ということは、法的な世界では「事実として認められない」ことに繋がりかねないのです。
この記事では、主な法的トラブルの場面ごとに、どのような証拠が重要になるのか、そしてどのように証拠を集めればよいのか、基本的なポイントを分かりやすく解説しています。
客観的な証拠が持つ力
客観的な証拠は、あなたの主張に「事実」としての裏付けを与えます。
- 交渉を有利に進める力
明確な証拠があれば、相手方もあなたの主張を無視できなくなり、交渉が有利に進みやすくなります。 - 調停・裁判で説得力を持つ力
調停委員や裁判官は、感情的な訴えよりも、客観的な証拠に基づいて事実を認定し、判断を下します。 - 弁護士の戦略の土台
弁護士は、手元にある、あるいは追加で収集可能な証拠に基づいて、最善の解決戦略を立て、法的な主張を組み立てます。証拠が多ければ多いほど、取れる選択肢も広がります。
【ケース別】どんな証拠を集めればいい?
トラブルの内容によって、重要となる証拠は異なります。以下に主な例を挙げます。
1. 離婚に関するトラブル
不貞行為(不倫)の場合
- 配偶者と不倫相手とのメール、LINE、SNS等のメッセージ履歴
- ラブホテルへの出入りや肉体関係の存在を推認させる写真・動画
- ホテルの領収書、クレジットカードの利用明細
- 探偵事務所の調査報告書
- 不貞行為を認める当事者の発言の録音、念書
不愉快なものであっても、メッセージ履歴や写真は消さないようにしてください。また、当事者が不貞行為を認めている場合でもそれだけで安心せず、必ず録音や書面で記録化してください。
DV・モラハラの場合
- 暴力による怪我の写真、医師の診断書
- 暴言や侮辱的な発言の録音
- モラハラの内容や日時、精神的苦痛を記録した日記・メモ
- 破壊された物品の写真
- 警察や相談機関への相談記録
DVの程度が著しい場合は、証拠収集よりも速やかな避難を優先すべき場面もあることにご留意ください。
財産分与の場合
- 夫婦双方の預貯金通帳、取引履歴
- 不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書、査定書
- 給与明細、源泉徴収票、確定申告書
- 生命保険証券(解約返戻金額がわかるもの)
- 株式や投資信託の取引報告書
- 退職金の金額がわかる資料(就業規則、退職金規定など)
不動産や退職金など、紛争が明らかになってからでもその存在が明らかなものについては証拠収集の優先度は高くありません。
一方、銀行口座や株取引の記録などは隠されてしまえば後から存在を確認することが難しいため、同居中に把握を進めていただくことが適切です。
2. 刑事事件の被害者となった場合
傷害事件
医師の診断書、怪我の写真、治療費の領収書
窃盗・器物損壊
被害品の購入時のレシート、被害状況の写真、修理費用の見積書・領収書
ストーカー被害
つきまとい等の日時・内容を記録した日記、メール・SNS等の履歴、着信履歴、録音、写真・動画
性犯罪被害
(※非常にデリケートな問題です。無理はしないでください)
可能であれば、医師の診察記録、事件直後に第三者に相談をした記録、相手とのメッセージ履歴など
3. 相続に関するトラブル
遺言書
自筆証書遺言、公正証書遺言など
被相続人(亡くなった方)の財産に関する資料
預貯金通帳、不動産登記情報、有価証券の明細、借金の契約書など
相続人を確定する資料
被相続人と相続人全員の戸籍謄本(出生から死亡まで)
遺言の有効性が争われる場合
遺言作成時の被相続人の診断書、介護記録、当時の状況を知る人の証言メモなど
生前贈与が問題となる場合
贈与契約書、銀行振込の記録など
4. 貸金(お金の貸し借り)トラブル
- 金銭消費貸借契約書、借用書
- お金を貸した際の銀行振込の記録
- 返済を約束するメールやLINE等のやり取り
- 返済を受けた際の領収書、銀行振込の記録
- 返済を催促した内容証明郵便など
どうやって証拠を集める?基本的な方法
証拠は、トラブルが発生してから慌てて集めようとしても、既に失われていることがあります。日頃から、あるいは「おかしいな」と感じた時点から、意識的に記録・保存しておくことが大切です。
- 記録する
出来事を詳細に日記やメモに残す(日付、時間、場所、誰が、何を、どのように、自分の気持ちなど)。 - 保存する
メール、LINE、SNSのメッセージは消さずに保存(スクリーンショットも有効ですが、元データがあることが望ましいです)。契約書、領収書、明細書などの書類は整理して保管する。 - 録音・録画する
相手との重要な会話(暴言、約束事、交渉の内容など)を録音しておく。 - 写真を撮る
状況証拠(怪我、壊れた物、現場など)を写真や動画で記録する。 - 目撃者を確認する
トラブルの現場に居合わせた人がいれば、名前や連絡先を聞いておく。
弁護士による証拠収集
ご自身で集められる証拠には限界があります。
特に、相手方が情報を隠している場合や、金融機関・会社などが保有する情報を得る必要がある場合は、弁護士に依頼することで、以下のような法的な手段を用いた証拠収集が可能になります。
内容証明郵便
相手方に特定の意思表示(請求、催告など)をしたことを郵便局が証明するもので、後日の証拠となります。
弁護士会照会
弁護士会を通じて、企業や団体、官公庁などに対し、必要な情報の開示を求めることができます。
(例:相手方が使用する携帯電話の契約者情報、銀行口座の残高、相手の勤務先情報など)
裁判所を通じた手続き
訴訟や調停の中で、裁判所を通じて相手方に文書の提出を命じたり(文書提出命令)、関係機関に調査を依頼したり(調査嘱託)、専門家による鑑定を求めたりすることができます。
弁護士は、何が法的に有効な証拠となるか、どのタイミングで、どのように証拠を収集・提出するのが最も効果的かを熟知しています。
証拠集めの注意点
- 違法な収集は避ける
相手のプライバシーを著しく侵害する方法(盗聴、無断でPCを操作、アカウントにログインするなど)で収集した証拠は、後に証拠として認められない可能性が否定できないばかりか、ご自身が法的な責任を問われる可能性もあります。 - 安全の確保
DVやストーカー被害の場合、証拠集めが相手に知られると危険が及ぶ可能性があります。ご自身の安全を最優先に行動してください。 - 早めの相談
「どんな証拠が必要か分からない」「どうやって集めたらいいか不安」という場合は、証拠が失われる前に、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。
「証拠」を味方に、有利な解決を
法的なトラブルに直面したとき、「証拠」はあなたの主張を裏付け、正当な権利を守るための強力な武器となります。
トラブルの初期段階から証拠を意識し、適切に収集・保全しておくことが、有利な解決への第一歩です。
「手元に十分な証拠がないかもしれない」と感じている場合でも、諦めないでください。
弁護士に相談すれば、今ある証拠から何が主張できるか、さらにどのような証拠を集めるべきか、法的な手段で何ができるかを一緒に検討することができます。
ルーセント法律事務所では、離婚、相続、金銭トラブル、犯罪被害など、様々な分野の法的問題に対応しております。
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