はじめに
婚姻費用や養育費の金額を算定するためには、夫婦それぞれの年収を正確に把握する必要があります。もっとも、当事者に給与所得と事業所得の両方がある場合、どのように収入を認定すればよいのかという問題が生じます。このような場面では、裁判所が公表している算定表にそのまま当てはめることができません。
最近では、一般的な会社員として給与所得を得つつ、副業として事業所得を得ているケースもあり問題となる場面が増えています。以下では、給料所得と事業所得がある場合の婚姻費用・養育費の定め方、年収の把握方法について見ていきます。
① 標準算定方式を利用する
婚姻費用や養育費を算定する方法として、「標準算定方式」というものがあります。これは平成15年に公表され、その後も実務で利用されてきた算定方法です。現在の算定表もこの標準算定方式の考え方や枠組みを踏襲しつつ、算定の基礎となる統計データを更新して作成されています。
標準算定方式での算定は、ごく簡単にいえば総収入から必要な出費を控除し基礎収入を求めるということになりますが、その計算方法は複雑で個々の出費についてもどこまでが必要な出費なのかということで紛争が生じやすいデメリットがあります。
標準算定方式を用いることで、給料所得と事業所得がある場合でも総収入の認定が可能ですが、紛争が長期化する原因ともなり得るためおすすめはできません。
② 事業所得を給与所得に換算して給与所得と合算する方法
事業所得を給与所得に換算するためには、算定表を利用します。
例えば、夫が800万円の給与所得と500万円の事業所得を得ている場合、500万円(496万円)の事業所得の行には、650万円の給与所得が並んでいます。この場合では、500万円の事業所得は650万円の給与所得と等しいと理解できます。
そして、800万円(給与所得)と650万円(給与所得に換算した事業所得)を合算した1450万円の給与取得が夫の年収であると認定して算定表を利用することになります。
③ 給与所得を事業所得に換算して事業所得と合算する方法
逆に、給与所得を事業所得に換算する場合も上の方法と同様に行います。
800万円の給与所得の行には、601万円の事業所得が並んでいます。
そして、601万円(事業所得に換算した給与所得)と500万円(事業所得)を合算した1101万円の事業所得が夫の年収であると認定することになります。
結論
上の例で「婚姻費用・夫婦のみの表」を確認してみましょう。給与所得として合算した場合は1450万円、事業所得として合算した場合は1102万円の行を参考にすることになりますが、一行のずれが生じてしまっています。算定表は、婚姻費用や養育費を簡易迅速かつ公平に算定する方法として公表されているものですが、完璧なものではありません。そのため、換算の過程で若干のずれが生じる場面は起こり得ます。
上記の例において妻の年収が0円とした場合の婚姻費用は、どちらも月額22万円~24万円の幅に収まっているためトラブルとはなりづらいように思いますが、いずれの所得額を換算すべきかということについては統一的な見解はなく、境目となりそうなときはひとまずは有利な方法を主張していくべきでしょう。
まとめ
残念ながら算定表を用いたとしても具体的な金額が確定できるわけではなく、幅のある中で夫婦間の話し合いや協議が必要となります。離婚が成立する場合には、親権者や養育費、財産分与、慰謝料、年金分割などの離婚条件については離婚協議書や離婚公正証書を作成しておくことが望ましいです。
また、適切な婚姻費用や養育費を得るためには、法律の専門家である弁護士の助力を得ていただくことが重要です。
配偶者が副業をしていて給与所得と事業所得の両方がある場合に限らず、住宅ローンの負担がある場合やお子様が私立学校に通っている場合には、算定表をそのまま利用できないか、妥当な結論を導けないケースがあります。
離婚問題や、婚姻費用・養育費の金額についてお悩みの場合は、ルーセント法律事務所にぜひご相談ください。当事者双方が納得できる離婚条件の設定や、養育費の獲得について離婚事件を多数取り扱っている弁護士がお力添えいたします。