はじめに:「修理すれば元通り」は本当?
交通事故で愛車が損傷し、幸いにも修理工場できれいに直してもらった。しかし、あなたはこう思うかもしれません。
「見た目は元通りになったけれど、この車はもう『事故車(修復歴あり)』だ。将来売却するときの価値は、事故前より確実に下がってしまうだろう。この価値の下落分は、誰も補償してくれないのだろうか…?」
この、事故によって生じた、修理しても回復しきれない車両の価値の下落のことを、法律の世界で「評価損(ひょうかそん)」といいます。
被害者の方々がこの「評価損」を相手方保険会社に請求しても、「修理費用はお支払いしたので、損害は全て填補されています」と、その支払いを拒否されるのが実情です。
しかし、特定の条件を満たせば、裁判で評価損が認められるケースは存在します。
この記事では、評価損とは何か、そして、その請求が認められるための厳しい条件と、弁護士の役割について分かりやすく解説します。
「評価損」とは?
評価損とは、交通事故による車両の損傷が、修理によって物理的・機能的には回復したとしても、「事故歴・修復歴がある」という理由だけで、中古車市場での取引価格(価値)が下落してしまうことによる損害を指します。
中古車を購入する際、多くの人が「修復歴のある車」を敬遠したり、より安い価格を求めたりするのは、容易に想像がつくでしょう。
この市場価値の低下分を、事故の損害として加害者に請求するのが、評価損の請求です。
保険会社は、なぜ評価損を認めたがらないのか?
相手方保険会社は、評価損の請求に対し、ほぼ例外なく「修理によって車両の価値は回復しているため、評価損は発生していない」という立場で、支払いを拒否します。
その理由は、損害額の算定が難しい(客観的な基準が確立されていない)ことにあります。そのため、被害者個人が保険会社と交渉して評価損を認めさせるのは、極めて困難と言わざるを得ません。
評価損が認められるための厳しい条件
では、どのような場合に、裁判所は評価損を損害として認めてくれるのでしょうか。過去の裁判例から、主に以下の3つの条件が重要視される傾向にあります。
条件1:車両の骨格部分(フレーム等)に損傷があること
車の損傷は、ドアやバンパー、フェンダーといった、ボルトで取り付けられていて交換が容易な「外板パネル」への損傷と、車の骨格を成す「フレーム部分」への損傷に大別されます。
評価損が認められるのは、基本的に後者の「フレーム部分」にまで損傷が及び、その修復(交換・修理)が行われたケースに限られます。
ドアを交換しただけ、バンパーを修理しただけ、といったケースでは、評価損の請求はほぼ認められません。
【フレーム部分の具体例】
ピラー(フロントピラー、センターピラー等)、クロスメンバー、インサイドパネル、フロア、トランクフロア、ルーフパネルなど
条件2:車種・年式・走行距離など
高級車・外車
一般的な国産大衆車に比べ、ブランド価値や希少性から、事故歴による価値下落が顕著であるため、評価損が認められやすい傾向にあります。
新車または登録から期間が短い車
新車登録から日が浅い(1~3年以内)ほど、事故による価値下落の幅が大きいと判断されやすくなります。
逆に、年式が古く、走行距離が多い車は、元々の価値が低いため、評価損は認められにくくなります。
条件3:損傷の程度が大きいこと
フレーム部分の損傷であっても、その損傷の程度が大きく、大規模な修理が必要であった場合ほど、評価損は認められやすくなります。
評価損の請求が難しいケースのまとめ
- 損傷がドアやバンパーなど、外板パネルにとどまる場合
- 年式が古く、走行距離が多い大衆車の場合
- 損傷の程度が軽微な場合
これらのケースでは、弁護士に相談しても、評価損の請求は難しいと判断される可能性が高いです。
評価損を請求・立証するためには
評価損を主張するためには、客観的な証拠が必要です。
修理の見積書・作業明細
どの部分を、どのように修理したかが分かる、最も基本的な証拠です。
「フレーム修正」など骨格部分を修理していることがわかる記載が必要です。
査定士などの専門家の意見
(財)日本自動車査定協会(JAAI)などに依頼し、「事故がなければ本来いくらで売れたか」「修復歴によってどれだけ価値が下がったか」を査定してもらい、査定書や意見書を作成してもらうことが、評価損の金額の根拠となります。
評価損の請求こそ、弁護士への相談が不可欠な理由
評価損の請求は、交通事故の損害賠見請求の中でも特に専門的で、難易度の高い分野です。だからこそ、弁護士への相談が不可欠と言えます。
1.請求が認められる可能性を的確に判断するため
あなたの車の車種・年式、そして修理内容などから、そもそも評価損の請求に見込みがあるのかどうかを、豊富な知識と過去の裁判例に基づいて的確に判断します。無駄な労力や費用をかけることを防ぎます。
2.保険会社との専門的・粘り強い交渉のため
前述の通り、保険会社は評価損の支払いを原則として拒否します。弁護士は、法的な根拠と証拠に基づき、保険会社と専門的かつ粘り強く交渉します。
3.有力な証拠(査定書など)の収集をサポートするため
どのような査定書や意見書が裁判で有効となるかアドバイスし、その取得をサポートします。
4.訴訟も視野に入れた対応が必要になるため
評価損は、示談交渉段階で保険会社が認めることは稀であり、最終的に裁判(訴訟)を起こして、裁判官に判断を仰ぐことになるケースがほとんどです。弁護士は、訴訟手続き全体をあなたの代理人として遂行します。
弁護士費用特約の活用も忘れずに
もし、あなたの自動車保険に「弁護士費用特約」が付帯していれば、評価損の請求のような複雑な案件であっても、費用の心配なく弁護士に依頼することができます。
泣き寝入りせず、まずは専門家の見解を
愛車が事故に遭い、その価値が下がってしまったという現実は、オーナーにとって非常に辛いものです。
保険会社の「修理費は払いますが、評価損は認めません」という一方的な主張に、泣き寝入りする必要はありません。
ルーセント法律事務所は、西宮市・宝塚市をはじめ阪神地域において、評価損が争点となる難しい交通事故案件にも対応しております。「自分のケースで評価損は請求できるだろうか?」と少しでも思われたら、示談書にサインしてしまう前に、ぜひ一度ご相談ください。
初回のご相談は無料です。あなたの正当な権利を守るため、専門家の視点から、最善の解決策をご提案いたします。
