はじめに:「時効」と聞くと、何を思い浮かべますか?
「昔犯した過ちが、今になってバレるのではないか…」
「何年も前に被害に遭ったが、今からでも犯人を訴えることはできるのか…」
ドラマや小説でもよく登場する「時効」という言葉。この時効には、民事上の時効(お金を請求できる権利がなくなるなど)と、刑事事件の時効があります。
この記事で解説するのは、後者の「刑事事件の時効」、正しくは「公訴時効」と呼ばれるものです。これは、国(検察官)が犯罪を犯した人を起訴(裁判にかけること)できる期間の制限を指します。
もし公訴時効が成立(完成)すれば、たとえ後から真犯人だと特定されたとしても、その罪で起訴されることはなく、刑事罰を受けることもありません。
では、この時効は、いつから始まり、どのくらいの期間なのでしょうか。代表的な犯罪を例に、その仕組みを分かりやすく解説します。
公訴時効は、いつからカウントが始まる?
時効のカウントがいつから始まるのか(起算点)は、非常に重要です。
法律(刑事訴訟法第253条)では、「時効は、犯罪行為が終つた時から進行する」と定められています。これが刑事事件の時効の大原則です。
- 窃盗罪の場合
財物を盗み取った時点で「犯罪行為が終了」し、その瞬間から時効のカウントが始まります。 - 傷害罪の場合
相手に怪我をさせた時点で「犯罪行為が終了」し、カウントが始まります。
「警察にバレた時」や「被害者が被害届を出した時」からカウントが始まるのではない、という点をしっかり押さえておきましょう。
犯罪別:時効の期間はどれくらい?
公訴時効の期間は、その犯罪の法定刑(法律で定められた刑罰)の重さによって決まっています。罪が重ければ重いほど、時効の期間は長くなります。
ここでは、代表的な犯罪の時効期間をご紹介します。
| 犯罪名 | 主な法定刑 | 公訴時効の期間 |
|---|---|---|
| 殺人罪 | 死刑、無期懲役など | 時効なし(※1) |
| 強盗致傷罪 | 無期または6年以上の懲役 | 15年 |
| 不同意性交等罪(旧 強制性交等罪) | 5年以上の有期懲役 | 15年(※2) |
| 傷害罪 | 15年以下の懲役など | 10年 |
| 不同意わいせつ罪(旧 強制わいせつ罪) | 6月以上10年以下の懲役 | 12年(※2) |
| 窃盗罪 | 10年以下の懲役など | 7年 |
| 詐欺罪 | 10年以下の懲役 | 7年 |
| 業務上横領罪 | 10年以下の懲役 | 7年 |
| 撮影罪(性的姿態撮影等処罰法) | 3年以下の懲役など | 3年 |
| 暴行罪 | 2年以下の懲役など | 3年 |
| 名誉毀損罪 | 3年以下の懲役など | 3年 |
(※1)殺人罪など「人を死亡させた罪で死刑にあたるもの」は、2010年の法改正で時効が廃止されました。
(※2)不同意性交等罪や不同意わいせつ罪などの性犯罪は、2023年の法改正で、時効期間が大幅に延長されました。
時効のカウントが「ストップ」するケースに注意
「海外に逃げていれば、時効が完成する」と考えるのは間違いです。
時効の進行は、以下のような特定の事情があると「停止」します。
- 犯人が国外にいる場合
その期間中は、時効の進行が停止します。 - 検察官に起訴された場合
起訴された時点で時効の進行は停止し、裁判が終わるまで時効は完成しません。 - 共犯者がいる場合
共犯者の一人が起訴されると、他の共犯者の時効も停止します。
民事の時効は「別物」です
ここで解説したのは、あくまで刑事罰を科すための「公訴時効」です。
これとは別に、被害者が加害者に対して損害賠償(慰謝料など)を請求する権利にも、民事上の「時効(消滅時効)」が存在します。
例えば、窃盗罪の公訴時効(7年)が完成して犯人が刑事罰を受けなくなったとしても、被害者が損害賠償を請求する権利は、「損害及び加害者を知った時から3年(または5年)」あるいは「不法行為の時から20年」であり消滅しません。
刑事上の責任と、民事上(お金)の責任は、全く別物であることに注意が必要です。
「時効が成立しているか」の判断は、弁護士にご相談を
ここまで時効について解説してきましたが、「結局、自分のケースは時効が成立しているのか?」を個人で正確に判断するのは、極めて困難です。
- 「犯罪行為が終つた時」がいつなのか、法的に争いがあるケース
- 共犯者の存在や、海外渡航歴などで、時効が停止している可能性があるケース
- 法律の改正によって、時効期間が変わっているケース
など、専門家でなければ見極められない複雑な要素が数多くあります。
「過去の事件について、警察から突然連絡が来た」
「古い事件で被害届(告訴状)を出したいが、時効が心配」
このようなお悩みをお持ちの方は、安易に自己判断せず、捜査機関に対応する前に、まずは刑事事件に詳しい弁護士にご相談ください。
ルーセント法律事務所は、宝塚市・西宮市をはじめ阪神地域において、刑事事件に関するご相談に豊富な経験がございます。
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