はじめに:警察からの電話、その一本が運命の分かれ道

「〇〇警察署の者ですが、先日〇〇の件で、一度お話をお伺いしたいので、署まで来ていただけますか」
ある日突然、警察からこのような電話がかかってきたら、誰でも心臓が凍りつくような思いをするでしょう。被疑者、つまり犯罪の疑いをかけられている立場での呼び出しであれば、その不安や恐怖は計り知れません。
しかし、このような時こそ、冷静になり、正しい知識を持って、慎重に行動することが何よりも重要です。なぜなら、警察署で行われる「取調べ」でのあなたの対応一つで、その後の人生が大きく変わってしまう可能性があるからです。
この記事では、万が一、あなたが被疑者として警察に呼び出された場合に、ご自身の不利益を最小限に抑え、未来を守るために絶対に守るべき「4つの鉄則」と、取調べに臨む前に必ず弁護士に相談すべき理由について解説します。
「取調べ」とは何か?「供述調書」の恐ろしさ
まず、警察の「取調べ」の目的を理解しておく必要があります。
警察官は、あなたから話を聞き、「供述調書」という書類を作成します。これは、あなたの発言内容を文章にまとめたもので、一度あなたが署名・押印(指印)をしてしまうと、後の裁判で極めて強力な証拠として扱われます。
一度署名した調書の内容を、後から「あれは嘘でした」「本当はそんなつもりじゃなかった」と覆すことは、非常に困難です。
つまり、取調べは、あなたにとって不利な証拠が作られる可能性のある、非常に重要な場面なのです。
取調べに臨む上での4つの鉄則
この重要な取調べに臨むにあたり、以下の4つの鉄則を必ず守ってください。
鉄則1:呼び出しは絶対に無視しない
警察からの出頭要請は、多くの場合「任意出頭」であり、法的な強制力はありません。
しかし、正当な理由なく出頭を拒否し続けると、警察は「逃亡したり、証拠を隠滅したりするおそれがある」と判断し、裁判所に逮捕状を請求する可能性が格段に高まります。
逮捕されてしまえば、身体を拘束され、社会生活への影響は甚大なものになります。
大前提として、警察からの呼び出しには必ず応じましょう。もし、仕事の都合などで指定された日時に行けない場合は、その旨を正直に伝え、日程を調整してもらってください。
鉄則2:嘘は絶対につかない
自分に不利な状況を避けたい一心で、その場しのぎの嘘をついてしまう方がいます。しかし、嘘をつくことは、最もリスクの高い行為です。
警察は、防犯カメラの映像、関係者の証言、あなたのスマートフォンに残された履歴など、様々な客観的証拠を既に持っている可能性が十二分にあります。
一般論としては、警察が被疑者本人に接触するのは捜査の最終段階で、客観的証拠を収集した上で「被疑者本人はどのような弁解をするのか」を見ようとしていることが多いです。あなたの嘘が、それらの客観的証拠と矛盾すれば、すぐに嘘だと見破られてしまいます。
一度嘘がバレてしまうと、あなたの供述全体の信用性が失われ、本当のことを話している部分まで「嘘ではないか」と疑われてしまいます。
後の取調べが過酷になることや「反省していない」という印象を与え、後の処分で非常に不利に働きます。
鉄則3:記憶が曖昧なことは「覚えていない」と正直に言う
取調べでは、刑事から「〇月〇日の夜、何をしていたか」など、詳細な記憶について質問されます。
もし、記憶が定かでない、はっきりと覚えていないのであれば、見栄を張ったり、話を合わせたりせず、「よく覚えていません」「忘れました」と正直に答えましょう。
数ヶ月前のことについて覚えていないことは何らおかしいことではなく、「覚えていない」と答えることは、決して悪いことではありません。むしろ、不確かな記憶に基づいて曖訪に答えてしまい、後で客観的な証拠と矛盾する方が、よほど大きな問題となります。
鉄則4:「~かもしれない」という曖昧な供述はしない
鉄則3とも関連しますが、「たぶん~だったと思います」「~かもしれません」といった、推測や可能性に基づいた曖昧な回答は絶対に避けてください。
あなたは「かもしれない」というニュアンスで話したつもりでも、供述調書には、その曖昧な部分が削ぎ落とされ、「~でした」という断定的な表現で記載されてしまう危険性があります。
自分が確信を持って「はい、そうです」と言えること以外は、断定的に話すべきではありません。
忘れてはならない最大の権利「黙秘権」
これら4つの鉄則に加え、あなたには「黙秘権」という、憲法で保障された極めて重要な権利があります。
これは、話したくないこと、自分にとって不利益になる可能性のあることについては、一切話さなくてもよいという権利です。
黙秘権を使うことは、決して「罪を認めた」ことにはなりません。どのように対応すべきか判断に迷う質問に対しては、「黙秘します」または「弁護士と相談するまで話しません」と告げることができます。
警察に行く前に、必ず弁護士に相談すべき理由
ここまで取調べの鉄則を説明してきましたが、いざ警察官を目の前にして、たった一人でこれらを冷静に実践するのは至難の業です。
だからこそ、警察署に出頭する前に、必ず弁護士に相談することが、あなたの未来を守る上で決定的に重要になります。
1.取調べの「シミュレーション」ができる
弁護士は、あなたから事情を伺い、警察がどのような点に興味を持ち、どのような質問をしてくるかを予測します。その上で、「この質問にはこう答えるべき」「この質問には黙秘権を使うべき」といった具体的な受け答えの方針を、事前に一緒に検討・練習することができます。
2.あなたの権利(黙秘権など)を正しく理解し、使う勇気が持てる
弁護士から権利について詳しく説明を受けることで、取調べの場で不当な圧力を受けても、自信を持ってご自身の権利を行使することができます。
3.事件の見通しと、今後の流れがわかる
そもそも、あなたがかけられている疑いがどのような犯罪にあたるのか、今後どのような手続きが進んでいくのか、最悪の場合どうなるのか、といった見通しを知ることができます。これにより、闇雲な不安から解放され、落ち着いて取調べに臨むことができます。
4.「弁護士がついている」という精神的な支えが得られる
取調べは、孤独で過酷な精神状態に置かれます。「自分には味方になってくれる弁護士がいる」という事実は、大きな精神的な支えとなり、冷静さを保つ助けになります。
たった一度の取調べが、あなたの未来を決める

警察からの最初の取調べは、刑事手続き全体の中でも、極めて重要なターニングポイントです。ここで作成された供述調書が、その後のあなたの運命を左右すると言っても過言ではありません。
準備なくして、その重要な局面に臨むのは、徒手空拳で戦場に行くようなものです。
ルーセント法律事務所は、宝塚市・西宮市をはじめ阪神地域において、刑事事件に関するご相談に迅速に対応いたします。警察から呼び出しを受け、どうすればよいか分からず、深い不安の中にいらっしゃる方は、どうか一人で警察署に向かう前に、まず当事務所にご連絡ください。
初回のご相談は無料です。秘密は厳守いたします。私たちが、あなたの正当な権利を守り、不利益を最小限に抑えるための最善の策を一緒に考え、あなたと共に戦います。