はじめに:あなたに与えられた、最も強力な権利

もしあなたが刑事事件の被疑者として警察の取調べを受けることになったら、そこは孤立無援の、非常に強いプレッシャーがかかる場となります。
捜査官は、事件の真相を解明するため、時には厳しく、時には優しく、様々な角度からあなたに質問を投げかけてきます。
このような状況で、自分を守るために与えられた、憲法上のものであり、かつ、最も強力な権利が「黙秘権(もくひけん)」です。
しかし、この黙秘権について、「使ったら不利になるのではないか」「罪を認めたことになるのではないか」と誤解している方が非常に多いのも事実です。
この記事では、被疑者であるあなたに保障された「黙秘権」とは何か、その正しい使い方、そして行使する際に弁護士のサポートがなぜ不可欠なのかを、分かりやすく解説します。
「黙秘権」とは、そもそもどんな権利?
黙秘権とは、簡単に言えば、「話したくないことについては、一切話さなくてもよい」という権利です。
これは、日本国憲法第38条1項で「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と定められている、国民の基本的な権利の一つです。
- 何を黙秘できる?
事件に関する内容はもちろん、あなたの経歴、家族構成、交友関係など、捜査官からのいかなる質問に対しても、答える義務はありません。 - なぜ存在する?
無実の人が、厳しい取調べのプレッシャーに負けて、やってもいない罪を認めてしまう(虚偽の自白)のを防いだり、話すことでかえって不利益な状況に陥ることから、あなた自身を守るために存在します。
「黙っていると、不利になるのでは?」という大きな誤解
多くの方が、黙秘権について以下のような誤解をしています。
誤解1:「黙っていると、反省していないと思われ、不利になる」
→ 間違いです。
黙秘権は、憲法で保障された正当な権利です。
あなたが黙秘権を行使したという事実そのものを、あなたに不利な証拠として扱うことは、法律上許されていません。
反省しているかどうかは、黙っているかどうかではなく、他の客観的な行動(被害者への謝罪や弁償など)で示していくものです。
誤解2:「自分はやっていないのだから、正直に全部話した方がいい」
→ 場合によっては危険な考えです。
たとえ無実であっても、厳しい取調べの中で動揺し、記憶違いや不正確な発言をしてしまうことは十分にあり得ます。
その些細な矛盾点などを捜査官に厳しく追及され、あたかもあなたが嘘をついているかのような「供述調書」が作成されてしまうリスクがあります。
一度署名してしまった供述調書の内容を、後から覆すのは極めて困難です。
そもそも、刑事事件の捜査において警察が被疑者の取調べを行うのは捜査の最終段階であることが通常です。裏返すと、警察はすでにあなたが犯人であると疑うに足りる客観的な証拠を有していることが多いです。どうしても捜査員は「やっているに違いない」という目線で取調べに臨んでしまいます。
あなたの言い分を信じてくれる可能性は高くなく、「事件を否認している」と取調べが長期化するおそれがあります。
仮に無実であったとしても、捜査機関側があなたの言い分を信じてくれて「なるほどあなたは無実なのですね」と納得してくれることはないと言ってしまっても決して言い過ぎではありません。このような場合に、あなたが供述した些細な矛盾を指摘されて取調べが過酷になることが少なくありません。
黙秘権は、無実の人が身を守るためにも、極めて重要な権利なのです。
黙秘権の具体的な使い方(やり方)
黙秘権の行使に、特別な手続きは必要ありません。捜査官からの質問に対し、以下のように明確な意思表示をすれば足ります。
- 「黙秘権を行使します」
- 「話したくありません」
- 「弁護士と相談するまで、一切話しません」
- (何も答えない)
捜査官は、一度断られても、手を変え品を変え、あなたに話をさせようと試みてきます。それに屈することなく、冷静に、そして繰り返し、黙秘する意思を伝え続けることが重要です。
また、もし何か話をしたとしても、最後に作成された供述調書の内容に納得がいかなければ、署名・押印(指印)を拒否する権利もあります。これも黙秘権の一環です。
黙秘権行使の戦略:完全黙秘か、部分的黙秘か
黙秘権の行使には、主に2つの戦略があります。
- 完全黙秘
事件に関する一切の質問に対し、完全に黙秘を貫く方法です。特に、逮捕直後で情報が錯綜している場合や、容疑を全面的に争う場合などに有効な戦略です。 - 部分的黙秘
氏名や経歴など、答えても不利益のない質問には答えつつ、事件の核心に触れる不利な質問に対してのみ、黙秘権を行使する方法です。
どちらの戦略をとるべきか、あるいは、どの部分について黙秘し、どの部分について話すべきか。この判断は、事件の内容や証拠の状況によって大きく異なり、極めて高度な法的判断を要します。
黙秘権の行使は、必ず弁護士に相談してから
だからこそ、黙秘権という強力な武器を正しく使うためには、必ず、事前に弁護士に相談することが不可欠です。
1.最適な「黙秘の戦略」を立てるため
弁護士は、あなたから伺った事情や、警察がどのような証拠を持っている可能性があるかを分析し、あなたの事件にとって、完全黙秘がよいのか、部分的黙秘がよいのか、あるいは積極的に話すべきなのか、最善の戦略をアドバイスします。
このアドバイスの有無が、その後の結果を大きく左右します。
2.厳しい取調べに耐え抜く精神的な支えを得るため
「弁護士から、この質問には答えなくていいと言われています」と、弁護士の助言を盾にすることで、捜査官からのプレッシャーに屈せず、黙秘権を行使し抜く精神的な支えが得られます。
弁護士は、接見(面会)を通じて、あなたを励まし続けます。
3.捜査官の不当な圧力や誘導から身を守るため
もし、捜査官が黙秘権の行使を妨害したり、利益をちらつかせて供述を誘導したりするような不当な取調べを行った場合、弁護士は直ちに捜査機関に対して抗議し、あなたの権利を守ります。
捜査機関側から暴行があった件や、「認めたら早く帰れる」など不適切な取調べがされている件は残念ながらまだ存在しています。
4.権利を正しく、かつ効果的に行使するため
弁護士がいることで、あなたは安心してご自身の権利を行使でき、捜査機関側も、より慎重で適正な手続きを踏まざるを得なくなります。
あなたの未来を守る「沈黙」という選択肢

黙秘権の行使は、反省していないことの表明でも、非協力的な態度の表明でもありません。それは、不当な形で罪に問われることから自らの身を守り、適正な刑事手続きを受けるために、あなたに与えられた正当な防御権なのです。
もしあなたが被疑者として捜査の対象となり、取調べに不安を感じているなら、決して一人でその場に臨まないでください。
ルーセント法律事務所は、西宮市・宝塚市をはじめ阪神地域において、刑事事件の被疑者となってしまった方々を強力にサポートしております。初回のご相談は無料です。警察署に行く前に、まずは私たちにご相談ください。
ご相談内容は秘密厳守です。あなたの最も強力な武器である黙秘権を、あなたの未来を守るために、最も有効な形で使えるよう、私たちが全力で支援します。