はじめに:「初犯だから大丈夫」という大きな誤解

「犯罪を犯してしまったが、前科はない初犯だから、執行猶予がついて刑務所に入ることはないだろう…」
刑事事件の当事者となった方やそのご家族から、このようなご相談を受けることがあります。確かに、初犯であることは、刑の重さ(量刑)を決める上で被告人に有利な事情(情状)の一つです。しかし、「初犯=執行猶予」という考えは、大きな誤解です。
犯罪の種類や態様によっては、たとえ初犯であっても、一切の猶予なく直ちに刑務所に服役しなければならない判決、いわゆる「一発実刑(いっぱつじっけい)」となるケースは決して少なくありません。
この記事では、どのような場合に初犯でも実刑判決のリスクがあるのか、特にその可能性が高い犯罪として「不同意性交等罪」と「詐欺罪(特殊詐欺など)」を例に挙げ、その理由と、実刑を回避するためにできることについて弁護士が解説します。
そもそも「執行猶予」とは?付くための絶対条件
まず、執行猶予制度の基本を理解しておくことが重要です。
執行猶予とは、有罪判決で懲役刑や禁錮刑が言い渡されても、その執行を一定期間(1年~5年)猶予し、その期間を無事に過ごせば、刑罰権が消滅して刑務所に行かなくて済むという制度です。
しかし、執行猶予を付けるためには、法律上の絶対的な条件があります。それは、「言い渡される判決が、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金であること」(刑法第25条)です。
つまり、裁判官が「この事件は3年を超える懲役刑が相当だ」と判断した時点で、法律上、執行猶予を付けることは不可能となり、実刑判決が確定します。
初犯でも実刑判決のリスクが高い犯罪
では、どのような犯罪が「一発実刑」になりやすいのでしょうか。それは、犯した罪の内容自体が非常に悪質・重大で、社会に与える影響も大きいと判断される犯罪です。
不同意性交等罪(旧 強制性交等罪)
法定刑(法律で定められた刑罰)
5年以上の有期懲役
なぜ実刑になりやすいのか?
「不同意性交等罪」は、法律で定められた刑罰(法定刑)の下限が「懲役5年」となっています。
これは、執行猶予が付く条件である「3年以下の懲役」を最初から大幅に超えています。
したがって、原則として、有罪判決となれば実刑は免れません。 被害者の尊厳を著しく踏みにじる極めて重大な犯罪であるため、法律が非常に重い刑罰を定めているのです。
執行猶予の可能性は?
執行猶予が付くためには、裁判官が「酌量減軽(しゃくりょうげんけい)」という特別な減軽を行い、言い渡す判決を3年以下にまで引き下げ、かつ、執行猶予を付けるのが相当だと判断するという、二重のハードルを越えなければなりません。
これは、被害者との間で真摯な示談が成立し、被害者が被告人の処罰を強く望まない意思を示すなど、極めて例外的な事情が認められた場合に限られ、非常に困難です。
被害者が年少者の場合
被害者が未成年者など年少者の場合、裁判所は特に厳しく処罰します。
被害者が年少者の事件では、示談が成立しない限り執行猶予がつかず一発実刑となることが実務上通常です。
監護者が18歳未満の子供に対して行う監護者わいせつ罪や監護者性交等罪も同様です。
詐欺罪(特に特殊詐欺)
法定刑
10年以下の懲役
なぜ実刑になりやすいのか?
詐欺罪の刑罰の幅は広いですが、特に近年社会問題化している「特殊詐欺(オレオレ詐欺、還付金詐欺など)」については、裁判所は極めて厳しい姿勢で臨んでいます。
初犯であっても、以下のようなケースでは実刑判決となる可能性が非常に高くなります。
- 被害額が大きい:
数百万円、数千万円といった高額な被害を生じさせた場合。 - 組織性・計画性が高い:
詐欺グループの一員として、「受け子」「出し子」といった末端の役割であっても、組織的な犯罪に関与したと見なされる場合。 - 被害弁償・示談がなされていない:
被害者に与えた金銭的損害が回復されていない場合、実刑の可能性が格段に高まります。
執行猶予の可能性は?
個人が単独で行った詐欺で、被害額が比較的少額(数十万円程度)であり、かつ、被害者との間で被害弁償を含む示談が成立している場合などには、初犯であれば執行猶予が付く可能性は十分にあります。
しかし、特殊詐欺に関与した場合は、たとえ末端の役割で報酬が少なくても、実刑を覚悟しなければならない厳しい状況です。
執行猶予に向けた対応
被害者との示談を進め、再犯防止に向けた活動を行うことが執行猶予獲得のために極めて重要です。
その他の「一発実刑」があり得る犯罪
上記のほかにも、強盗罪、強盗致傷罪、殺人未遂罪、危険ドラッグの密輸・販売といった営利目的の薬物犯罪、危険運転致死傷罪など、犯行態様が悪質で結果が重大な犯罪は、初犯であっても実刑となる可能性が高いと言えます。
それでも、実刑を回避・刑を軽くするためにできること
たとえ実刑の可能性が高い重大事件であっても、諦めるべきではありません。刑の重さを少しでも軽くするため、あるいは万に一つの執行猶予の可能性を追求するために、弁護士と共に全力を尽くすべきです。
被害者との示談・被害弁償
最も重要な活動です。被害者に真摯に謝罪し、金銭的な被害を回復することで、被害者の処罰感情を和らげることが、量刑に最も大きく影響します。
特に、不同意性交等罪のような重大事件で酌量減軽を求めるには、示談の成否が決定的に重要となります。
真摯な反省と更生意欲を示すこと
なぜ罪を犯したのかを深く内省し、二度と繰り返さないための具体的な計画(依存症の治療、家族の監督など)を立て、それを裁判官に説得的に示すことが重要です。
弁護士による専門的な弁護活動が不可欠
重大事件になればなるほど、弁護士の専門性と活動量が結果を大きく左右します。
- 実刑リスクの早期分析:
事件の初期段階で、実刑の可能性を正確に分析し、最善の弁護方針を立てます。 - 戦略的な示談交渉:
被害者の心情に最大限配慮しつつ、粘り強く示談交渉を行います。重大事件の示談交渉は、極めて高度な技術と経験を要します。 - 酌量減軽を求める主張:
被告人に有利な事情を一つ残らず収集し、法廷で裁判官に対し、酌量減軽をすべき理由を説得的に主張します。
重大事件こそ、一刻も早い弁護士への相談を

「初犯だから」という安易な考えは、重大事件では通用しません。もし、ご自身やご家族が、ここに挙げたような実刑リスクの高い犯罪の疑いをかけられてしまった場合は、一刻も早く、刑事事件の経験豊富な弁護士にご相談ください。
逮捕直後からの初動対応が、その後の明暗を分けることも少なくありません。
ルーセント法律事務所は、宝塚市・西宮市をはじめ阪神地域において、重大な刑事事件の弁護活動にも積極的に取り組んでおります。厳しい状況であっても、決して諦めず、ご依頼者様にとって最善の結果を追求します。
初回のご相談は無料です。ご不安な状況にある今こそ、まずは私たちにご連絡ください。