はじめに:突然、あなたが犯罪の疑いをかけられたら?

「まさか自分が…」犯罪の疑いをかけられ、警察から連絡が来たり、ましてや逮捕されたりすれば、誰でも気が動転し、冷静な判断ができなくなるものです。
しかし、そんな混乱した状況で取ってしまった行動が、後々ご自身にとって決定的に不利な結果を招いてしまうことが、刑事事件では少なくありません。
私たち弁護士は、日々多くの刑事事件に携わる中で、被疑者・被告人の方が良かれと思って、あるいは知らず知らずのうちに、ご自身の状況を悪化させてしまうケースを目の当たりにしてきました。
そこで今回は、刑事弁護の専門家として、もしあなたが犯罪の被疑者・被告人という立場になった場合に、「絶対に」してはいけないことを5つ、厳選してお伝えします。これは、ご自身の権利を守り、将来への不利益を最小限に食い止めるために、非常に重要な知識です。
被疑者・被告人になったとき、避けるべき行動5つ
1. 不用意な供述をする(黙秘権を軽視しない!)
逮捕された場合や、任意であっても警察・検察官から取調べを受ける際、最も注意すべきは「話す内容」です。捜査機関は、あらゆる角度から質問を投げかけ、時には誘導的な問いかけで有罪に繋がる供述を引き出そうとします。
まず、嘘をついてはいけないことが大前提です。客観的な証拠と矛盾する供述をすることで取り調べが過酷になる場合があります。
また、積極的に嘘をつかなくても、不確かな記憶に基づいて「こうだったかもしれない」「こうだった可能性もある」という供述をすることも望ましくありません。
記憶にないこと・わからないことについては、「記憶にない」「わからない」と答えていただくべきですし、記憶にないこと自体は不利益に扱われません。
供述の内容は、「供述調書」という書面にまとめられます。後から供述調書の内容を覆すことは極めて困難です。
あなたには、話したくないことは話さなくてよい「黙秘権」という憲法上の重要な権利があります。取調べで何を話すべきか、あるいは話さないべきか、必ず弁護士に相談してから対応するようにしてください。
弁護士が来るまで一切話さない、という選択も有効な権利行使です。
2. 証拠隠滅(に見える行為)をする
「まずい、あのメールを消そう」「関係者に口裏合わせを頼もう」「証拠になりそうな物は捨ててしまおう」このような行動は望ましくありません。
法律上、自身の刑事事件に関する証拠を毀棄隠匿することは「証拠隠滅罪」には当たりません。
もっとも、証拠隠滅を行っていることは、逮捕や勾留のリスクを増大させ、保釈請求においても不利に考慮されます。最終的な刑事処分が決まる場面においても非常に不利に扱われてしまいます。
また、第三者が証拠隠滅に加担すると、第三者には証拠隠滅罪が成立し得ます。
スマートフォンやパソコンのデータを削除したり、関係者に事件について口止めをしたりするような行動は、たとえ軽い気持ちであっても、「証拠隠滅を図った」と判断されるリスクが極めて高いです。絶対にやめてください。
3. 被害者や関係者に直接・安易に接触する
被害者がいる事件の場合、謝罪や示談交渉は非常に重要です。しかし、それを被疑者・被告人本人が直接、あるいは弁護士を通さずに安易に行うことは、多くの場合逆効果です。
加害者本人からの直接の連絡や面会の要求は、被害者の恐怖心や嫌悪感を増幅させ、かえって被害感情を悪化させてしまうリスクがあります。
また、示談を迫ったり被害届の取り下げを求めることは、捜査機関側に脅迫や証拠隠滅と受け取られかねません。
謝罪や示談交渉は、必ず弁護士に依頼し、弁護士を通じて行うべきです。弁護士は、適切なタイミングと方法で、被害者の心情に配慮しながら交渉を進めます。
4. 弁護士への相談・依頼をためらう・遅らせる
「たいしたことないだろう」「費用が心配だ」「弁護士に頼むほどのことではない」 このような考えから弁護士への相談・依頼をためらったり、遅らせたりすることは、取り返しのつかない不利益につながる可能性があります。
特に逮捕直後の場面では、その後の勾留(身体拘束の継続)が決まるまでの最大72時間は、早期釈放を実現するための極めて重要な期間です。この間に弁護士が迅速に動けるかどうかで、その後の展開が大きく変わります。
また、捜査の初期段階でどのような対応をするか(黙秘するのか、何を話すのか、証拠にどう対応するか)は、後の処分に大きく影響します。弁護士からの早期のアドバイスは不可欠です。
加えて、事件から時間が経つと、自分に有利な証拠(防犯カメラ映像、目撃者の記憶など)が失われてしまう可能性があります。早期に弁護士が動くことで、これらの証拠を確保できる場合があります。
罪を認めているか否か、事件の軽重に関わらず、刑事事件の当事者となった場合は、一刻も早く弁護士に相談することが鉄則です。
5. 担当弁護士に嘘をつく・情報を隠す
弁護士は、あなたの唯一の味方です。弁護活動は、あなたと弁護士との信頼関係の上に成り立っています。
たとえ、あなたにとって不利な事実であっても、それを弁護士に正直に話してもらわないと、弁護士は適切な防御戦略を立てることができません。後から隠していた事実が検察官や裁判官に指摘されれば、弁護方針は崩壊し、状況は一気に悪化します。
また、捜査機関側は多くの証拠を有しています。事前に知らされていれば対応策を準備できますが、知らなければ効果的な反論はできません。
もっとも、大切なことは、嘘や隠し事が発覚すれば、弁護士との信頼関係は失われ、効果的な弁護活動が困難になるということです。
弁護士には守秘義務があります。あなたから聞いた話を、あなたの許可なく外部に漏らすことは絶対にありません。自分に不利なことであっても、全ての事実を正直に弁護士に話すことが、結果的にあなた自身を守ることにつながります。
まとめ:冷静な判断と早期の相談が重要

刑事事件の被疑者・被告人となると、誰もが不安と混乱に陥ります。
しかし、そんな時だからこそ、冷静さを失わず、上記のような「してはいけない行動」を避けることが重要です。
そして、何よりも信頼できる弁護士に一刻も早く相談し、そのアドバイスに従って行動することが、ご自身の権利と未来を守るための最善の道です。
当事務所では、刑事事件に関する初回相談を無料で受け付けております。
もしあなたが、あるいはあなたのご家族が刑事事件に関与してしまった場合は、決して一人で悩まず、すぐにご連絡ください。